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つづき。
同11日(日本11月21日) 晴 正午有日
竟日風穏やかなれども船は大きく動揺する。
晩方は空気極めて良し。
本日他の商船を3-4隻見受ける。
夜1時半より3時迄雨が降る。
同12日 晴(本邦11月22日) 正午有日
竟日風静かで波やすらかで船も動揺せず。
本日も好天気なり。
船6隻をスチュール(右舷)及び、
バクホールド(左舷)に見受ける。
本日午後白鳥1羽が空際を飛ぶのを見る。
尾が極めて長き事は日本の尾長鳥に似たり。
その大きさは白鷺の小なるもの位に覚える。
※シラオネッタイチョウでしょうか?
今日は熱気がことに甚だしい。
同13日(日本11月23日) 雲天竟日
竟日風なく船進む。遅し。
午後極めて美しいハーイ(鱶)が1尾、
船の側に来るを見る。
釣ろうと思ったが何処かへ行ってしまった。
本日は格別に船は動揺せず。
入夜12時頃に少し雨が降る。
本日も昨日と同じく他船が並航するを見る。
英と蘭の船なり。
同14日(日本11月24日) 午近雨午後晴
午前のまだ雨が来る前に太陽の熱気により、
カームル(船室)及び金具等の熱する事、
甚だしき殆ど触る事が出来ない。
11時に雨が降った事で午前よりは、
やや凌げるようになった。
今日より風は南より東に廻る。
按針役(航海士?)が云うには、
パウサトウインドの模様なりと、
※ハウサトウインド(Passatwind)=貿易風。
入夜に銀河を見る。
35度より25-6度位に見ゆ。
甲必丹が云うには、
パッサートとムーソンの境にて、
※パッサート(Passat)=貿易風。
ムーソン(Monsoon)=季節風。
スチルテゴルテル(無風帯)に入る故に、
ハリヤークル風なりと。
予はこの説を以て然とす。
何となればパッサートは少なくとも、
10度以上に至らざれば吹かず。
同15日 竟日晴(日本11月25日) 正午有日
風なきて波静か。船格別に動揺せず。
本日は1船も見ず。
晩方船側にボービス鳥が、
※カツオドリの別称ブービー(Booby)か。
白黒の羽で飛ぶのを見る。
空気は極めて良し。
本日ミウアーレベステレキに寄るに、
※この地名の見当が付きません。
殆ど測量違いかと疑われる程、
経度が異なっていた。
是は全く西半載風にて潮路が、
東に強く赴く故に船が東にとられたるなり。
同16日(日本11月26日) 竟日晴 正月有日
風の方向また西南となれり。
潮路を東に取る事昨日の如し。
船足遅し。海は本邦相模洋の凪の時位なり。
本日1船も見ず。ボービス鳥の飛ぶを見る。
空気極めて良し。
同17日(日本11月27日) 晴 正午有日
昨夜12時過ぎより雨が降る。
竟日並びに夜に入っても風は無し。
本日船1隻をスチュールボート(右舷)に見る。
即ち先日並び走る英船である。
ボービスの飛ぶを見る。他無記事。
同18日(日本11月28日) 竟日晴
本日もさしたる風はなし、船1隻を見る。
昨日の船なり。他無記事。動揺なし。
夜3時を過ぎてボイが美風と共に来る。
※ボイは馳風。
30分程にして止む。
同19日 晴
朝再び美風が来る。船足8里に至る.。
殆ど正午迄に吹き透る。午過に再び凪る。
鳥一羽を見る。ボービスなり。
晩方ボイ模様にて美風が来る。
只未だパッサート来らず。変化風なり。
只記すべき事は今晩の風は、
昨今のものに比べて冷気を覚える。
或いはパッサートの境と覚えるべきや。
今日のベステッキによるに潮路の違い、
※ベステッキは観測や測量の事か?
南緯は4分、東経は7分なるを以って占うに、
西半載風は既に衰うと見える。
夜半過ぎて雨が降り船足6里余に至る。
同20日(本邦12月朔日) 竟日晴 正午有日
午前は風が少し有る。午後衰える。
本日未だにパッサート来らず。
フルアンデルレイキ(変模様)にて、
西半載風の縁絶えず。
午後船1隻鳥(ボービス)1羽を見る。
餘無記事。
同21日(本邦12月2日) 竟日快晴 正午有日
本日朝から凪にて海面は油を流すが如き。
雲容またキュムリュスのみにて雨模様なし。
※キュムリュス(Cumulus)=積乱雲。
只所謂ウ子りなるもの南から北へ。
※ウ子り=波のうねりや変化。
熱気はことに甚だしい。
正午少し前にサメ1尾を釣る。大きさ1間余。
煮て喰らうに味はすこぶる良い。
このサメを上に引き上げる際に、
サメの子の如き同型の小魚、
長さ五寸位なるもの2尾サメの腹の下より、
甲板上に落ちた。
蘭人が云うにこれは子ではなく、
ソイスフュスと名付けられたものにて、
常にサメの腹に付いているという。
※コバンザメの事。
甲必丹や按針役らが云うには、
まさに便風を得るべしと、
これ船乗の祝言にて檣を掻き立て、
風を出すと云うに同じような通例と云う。
※サメが釣れると良い風が吹くという、
一種の迷信のようなものか?
夜に入っても同じく凪なり。晩方なお涼し。
キュムロスタラチス(層積雲)の、
ホンタシチースベールド殆と、
※これは意味が判りません。
藝州の山に似たりと共に興したり。
同22日(日本12月3日) 竟日天気快晴
正午有日
終日昨日と同じ天気にて風絶えて無し。
正午の実測によるに昨日のデーニシフに、
船は北及び少し西の方位に流れたり。
本日は熱度昨日よりも甚だしく92度に至る。
※現在の温度計とは値が違うようです。
カームル(船室)中の木具は皆熱して、
殆ど焔を生せんと欲している。
スチュールボート(右舷)の方は太陽に当り、
故に午民する事が出来ない。
只我部屋はバクホール故にやや凌げる。
然れども熱度は92度たり。
晩方は雨雲が少し見える。
船2隻スチュール及びバクボールドに見る。
昨今すべてキム(水平線)の所を、
ダムピへ(霧が懸る)あり。
キムより上は晴渡る。
食事の節蘭人が云うには猫の雄をhykat
雌をLykatと云う。また雄をkater
雌をkatというとか云々。
同23日(日本12月4日) 快晴 正午有日
気候は昨日よりもやや涼しい。
かつ風も昨日よりも吹く。
只バッサート未だ来たらず。
船1隻ボービス数尾を見る。
正午のベステッキによるに、
本日も北及び東方にストローム(潮流)の為に、
流されている。今夜キムが頗る明るく、
所謂十字星(コロイスステル)を明白に見る。
※南十字星の事。
尤も前日より2-3回は見たれども、
今宵の如く明るくはなかった。
昨今の熱度はことに甚だしき故に、
スペッキ(燻製豚肉)の類を喰らわず、
ただ酸味のあるものを主に喰らって、
腹中のフルブランヂング(可然性 渇く)を、
ベホルデレン(促進)せしめ、
ストフ(燃料)、ウィッセリング(交換)を、
はかどらしむ、船動揺無。
※最後の文章はたぶん、
「酸味のあるものを主に食べ、
体内の脂肪燃焼を促進させて、
代謝を向上させる」という意味でしょう。
つづく。
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