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つづき。
同24日(日本12月5日) 晴 正午有日
竟日凪にて昨日の如し。
船2隻をスチュールボールド(右舷)に見る。
波は南より北に行く事昨日に同じ。
ボービス(鳥)を見る。
晩方7時よりボイ模様にて東南の風来る。
船足6-7里より4里半に至る。
次第に萎えて9時頃より船足1里位に減ず。
本日も熱度甚だしく殆ど耐えるべからず。
同25日(日本12月6日) 晴 正午雲無日
夜から風は微吹。
竟日凪にて船は僅かに進む位なりしに、
薄暮に便風が来る。東南の方位より来る故、
今夜は強いパッサートウィンドなるべしと、
※(Passatwind)=貿易風。
皆々大いに悦びあえり。船足7里位なり。
夜に甲板上を歩く。久しぶりの美風故、
その愉快いふべからず。
本日も過午迄に船1隻を見受ける。
同26日(日本12月7日) 晴 正午有日
徹朝及竟日同方位の南南東のパッサート。
船足5-6里より7里余りに至る。竟日涼し。
夜8時頃ワリーフェンデ・フィス(飛魚)1尾が、
飛んで船内に入る。
捕らえると其の形本邦に飛魚に稍類せり。
大きさも又同じイナ位なり。夜有月。
※イナはボラの幼魚。
(本日正午のベステッキにミスエーシングを、
見る為にカールト(地面)を出す。
この辺りの差2度たるを以てかまわす)
※多分測量の修正をしている。
同27日(日本12月8日) 晴 正午有日
徹朝並びに竟日昨日と同方向のパッサート、
船足5里より6里余りに至る。
朝8時頃前日バクボールド(左舷)の方に見し、
船1隻遥かに我船の後ろ同線にあるを見る。
本船は他船より早き事知るべし。
午前より午後は風強きにて夜に入りてより、
7里4分の3のハールト(速力)に至る。
今日ボービスの飛ぶを見る。
夜には月が出て甲板上は寒さを覚える程。
同28日(12月9日) 竟日晴 正午有日
風力不衰。昨日の如し。日に次第に涼覚う。
過午白鳥1羽の飛ぶを見る。
前日記するものに同じペイル・スタールトと、
※シラオネッタイチョウか?
名づけられた鳥のこと。
本日も過午5時より別而風力潤う。
ロフ8里に至る。夜有月。
同29日(12月10日) 薄晴 正午有日
本日よりレイセイルに掛かる。
午前風衰え午後次第に吹きつのる。
午後5時頃より夜12時頃迄常に風吹く。
是月の感応によるなり。
飛魚数尾を見る。夜有月。
同30日(12月11日) 快晴 正午有日
午前より風力衰えず。
是迄より風東よりになりて、
即ち南当東の風となる故、
ロイメウィンドに而し。
諸帆よく力を含む、悦ぶべし。
この近日余程熱気が減じて夜分は、
全面筒袖1枚では寒さを覚える位なり。
今夜も月明りにして船進み事早く、
3更甲板上を歩く。仰ぎ見ると、
前日は殆ど水平線上にあった十字星が、
高い位置にあった。2首を賦す。
2更に眠りに就く。
彌月天涯失二寸青一長風相送入二南溟一
船頭一夜警二過冷一巽位漸高十字星
同31日 快晴 正午有日(本邦12月12日)
本日も適宜の風にて船足5-6里に衰えず。
予今朝より襦袢と袷筒袖壹枚に、
黒繻子の羽織を着す。これが適宜なり。
今朝より風の方位宿なく東に寄り、
殆ど東一位なり、故に渾て諸帆を掛ける。
即ちレイセイル等を皆掛けるなり、
故に船の傾くこと大いに減ず。
風は即ちハンデウィンドに而し、
フホールデウィンドの方に近し。
夜有月、過冷を覚える。
2月第1日(日本12月13日) 正午有日 快晴
風力不衰。方向は昨日の如し。
水天一色他、近来すへて飛魚の翻るを見る。
夜有月。
2月2日(日本12月14日) 晴正午有日
昨今風はホールデウィンドに吹く。
故に船足格別にはかどらず、
今朝アシュミットコムパスに而し、
ベーレンシタル羅針差偏西14度たり。
余りに驚くべき差だが、
甲必丹所持のアシミットカールトと、
大いに異なる故にスハルトの表によるに、
彼表にてはこの辺りは3度たり。
これを以て考えるに本船は鉄製故に、
鉄の干渉の致すところなるべし。
按針役もその通りと云う。
この船キュストを航するに、
羅針4旋する事ありしと云々。
将この船の羅針器を甲板上の、
ドハルスシケープスに磁針を安置し置くも、
尚この差を生ずるに至る。
この鉄船の一のペスヴァールなり。
※たぶん欠点とか短所とかの意。
故に他鉄船にはスタンダールドコムパスを、
置くものなり。
2月3日(本邦12月15日) 陰晴 正午有日
本日風力昨日より減ず。正午雨雲あり。
齢雨降るが即時止む。
午前ブロインフィス数尾船後にあるを見る。
※Blowfish?ふぐの事か?
過午に風は2ストレイキより、
1ストレイキ北に回る。風力は衰える。
船足3-4里位なり。按針役が云う。
予御まだに南パッサートに航して、
風北に変わりたるに逢いし事なしと云々。
海上はおだやかなり。
夜10時40分に雨が再度降る。
10分位で止む。月明りならず。
本日は一両日前より蒸暑を覚える。
しかれども前日の比にあらず。
同4日(日本12月16日) 陰晴不定 正午有日
雲勝にて雨降りまた晴れる。
風の方位昨日に異ならず。
船足4里より6里に至る。夜有月。
同5日(12月17日) 陰晴不足 正午有日
雲勝時々雨が少し降る。
本日は昨日よりも少し暖気なり。
風は昨日よりも剛時々雨雲あり。
晩方船は頗るスタンペンを為す。
船足5里より6里半に至る。夜有月。
諸子と浅草の市の話に及ぶ。
※そろそろ望郷の念が出てきたのでしょう。
同6日(12月18日) 晴 正午有日
風昨日の如し。余無記事。
只飛魚の群飛するをみるのみ。
晩方本船の左右に各1隻の船を見たというが、
我は見てはいない。夜有月。
船動揺せず。船足大凢5里。
同7日(日本12月19日) 晴正午有日
早起きして1隻のバルクシキップが、
※bulkship=ばら積み貨物船。
本船の後ろにあるを見る。
即ち昨暮見たもので、もう1隻は見えず。
彼船は晩方ようやく近くなりて、
セインフラフを出す。
※Sign Flag=サインフラグ。
即ち蘭船アムステルダムの船である。
42日前にシラバヤを出帆せしものの様。
※スラバヤ。ジャワ島の都市。
別無記事。夜有月。
今夜甲必丹と話す。
和蘭商船の賃銀の事に及び、当今船賃は
1艘1ラスト毎に110ギュルデンより、
往事は130ギュルデンたりしと云々。
此の官の荷物を積むなり。
和蘭商船東印度通航のものは、
多分奉行(官家)荷物を積むと云う。
また爪哇のバタービヤ往還で、
テレガラーフを結び付けたる木は、
※テレグラフ(telegraph)?
カポック又ボームウォルという。
細長き実がなる。
この実を乾かしてその中より、
本邦のパンヤの如きものを出して、
夜具枕杯のワタの代わりに用ゆ。
極めて柔軟なり。只衣類には、
製すべからずという。
※燃えやすい性質がある為。
また同島にアールド・ヲーリー(石油)が、
出るという。これは本邦越後の、
所謂クリーヅの油と同種なるべし。
※草生水の油。
この油にカルキ(石灰)を和して、
前の所謂カポックのワタを和して、
船の吃水所に塗ると、
自然石の如く黒くなり極めて良しという。
つづく。
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