榎本釜次郎渡蘭日記⑤

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つづき。

同8日(日本12月20日) 快晴 正午有日
 早朝昨日の船セイン(信号)を為さんと思い、
 本船スチゥルボールド(右舷)を遥に斜に進む。
 通常の話を為す。
 昨日より風方向は南寄りになりし故、
 船足の為に大いに利あり。
 按針役が云う。
 今朝6時バクホールド(左舷)の方、
 2個のヴァーテルホース(竜巻)を見たりと。
 然れど暗雲は我本船の方には来ないと云々。
 過午風は更に良し。入夜またしかり。
 船足6里より七里に至る。
 薄暮船1隻をバグボールドの遥か先に見る。

同9日(日本12月21日) 晴 正午有日
 徹朝風力頗る添えて船足7里に至る。
 過午4時頃Dolfyn(海豚/イルカ)1尾釣る。
 長さ5尺余りで色緑にして、
 滑に緑色の斑点所々にあり。
 腹の色少し黄色を帯びる。
 本邦豆相州辺りのシイラと呼ぶ魚と同じと、
 我水夫共らが云いあえり。
 ※イルカを釣ったのかと思ったら、
  シイラ(DolfynFish)だったようです。

 晩餐これを喰らう、油気少なく味良し。
 昔日サメの比にあらず。
 〇本日正午の実測に據る。今正午全く
  Tropicies Capri Capri(南回帰線)の、
  近辺に来れり。甲必丹が云う、
  ドルフィンは赤道付近では見られず、
  ケールキリング辺りの海より、
  南北44-5度の海辺りに多く見るという。
 〇今午後午睡覚め偶然一首を得たり
  路入南溟巳幾千海風吹夢日如
  尋常午睡爲清課正是家郷窮臘天

 晩方より風少弦す。夜10時頃月出る。
 海面銀の如し。

同10日(日本12月22日) 晴陰また雨
 正午有日
 昨夜より透朝船は頗るスタンペン(縦動)及、
 スリンゲルす。過午雨雲出る。
 3時前大滅3時30分頃よりボイ模様
 風力大に増し夫より引読雨雲ばかり、
 風吹くのり、船足7里より8里余に至る。
 但し船は頗る動揺する。空気はジッケなり。
 薄暮レイセイル類を皆収める。
 風はハルフルクインドに受ける。
 ※ハーフウインド(半風)?
 晩方より雨が再び降る。夜9時半頃雨止む。 
 ジュケリュフトなれども、
 晴雨儀は降らざるをもって、
 ※晴雨儀は気圧計の一種で、
  天気を予測するもの。

 憂うべき模様ではないことを知るべし。
 予は雨衣を着して甲板上を歩き何度も倒る。
 闇夜故に船が進むと白い波が積み重なる。
 爽快で久々の良きファールト(速度)なり。
 本日林某ボーツマン(鳥名)の飛ぶのを、
 ※林某は留学生の従者か?
  Boatswain bird=熱帯鳥の別名。
 見たという。ボーツマンと名付ける故は、
 この鳥の嘴がマルスペーケルに、
 ※Maalspeker=啄木鳥
 似たるを以てという。
 通称はトロポーシ・フォーゲルという。
 ※Tropic Vogel=熱帯鳥。
 これ回帰線より遠くに行かない鳥故、
 そう名付けられたと甲必丹が云う。
 本日魚2尾を釣り落とす。残念なりし。
 今宵8時半頃に船1隻が、
 本船のコロイフォード前をかすめて過ぐ。
 闇黒にして仕方が無いが危険であった。

同11日(日本12月23日) 陰雨 正午無日
 昨夜より朝に徹して雨が降る。
 風力強くレイセイル類全て収める。
 船足八里余に至る。然れども、
 ボーヘンブライムセイルは3檣共掛け置く。
 船は頗るスタンペンを為す。正午無日。
 故に圖にベステッキを記せず。
 明日を待つなりと云う。
 午前10時過ぎエーニヘミニウテンの間、
 雨降り直ちに止める。過午風力少し減ず。
 然れども3檣皆能風を含むをもって、
 船足6里余に至る。昨日正午より、
 WTNに走る。回帰線を余り離れて、
 パッサートを失うを恐れていると思われる。

同12日(日本12月24日) 晴正午有日
 風力昨日程にあらずといえど、
 船足6-7里に至る事あり。
 本日測量と羅盤の差偏西23度余りに至る。
 このまた本船鉄製の感によるなるべし。
 余無記事。

同13日(日本12月25日) 晴 正午有日
 朝通常の風力ロフ5里位なりしに、
 過午次第に風死にし。入夜は1里半位より、
 2里位に至る。余無記事。
 正午にヘステッキによるところでは、
 ロドリギス島は西北2分1西2方で、
 ※Rodrigues Island=ロドリゲス島
 距離5度17分たり

同14日(日本12月26日) 晴 正午有日
 徹朝凪で船足2里より進まず。
 次第に東に回り過午東より北に廻れり。
 晴雨儀は2-3日前よりも低くなって、
 空気中の湿気多く暖度増せり。
 海波また緩やかにして所謂うねり気もなし。
 これは皆北風の致すところにして、
 恰も北半球の地方に而。
 南風の吹くときと同様なり。此他無し。
 この辺り南緯26度近くにて、
 当節夏月中を過ぎ、太陽既に
 次第に北に近づくを以て、
 スチルゴルトル(無風帯)及び、
 パッサート境のスチテルも共に、
 太陽を追って移る。故に如右風吹くなり。
 按針役が云う。これ常に閲するに、
 南半球北風吹くは海上波立たず、
 温暖にて湿気多き晴雨は常に少なく低る。
 北半球南風の吹く節に異なることなし。
 また云う。
 予が北半球のノーフェンブルより、
 ※November=11月。
 フェブリュアレイ迄の際は、
 ※February=2月。
 この辺りは夏でヲルカーレテイトなり。
 マールトヲルカールある事は、
 ※Mарт=3月。
 極めて稀なりといえども、
 一度その例ありし事ありしと云々。
 また云う。
 この辺りフルアンデイルレイキの旋風、
 そのロープは一昼夜或は、
 ニ昼夜三周する事あり。
 然らざる節はストウムヴェーデルに而。
 スヴァーレウィンド吹くという。
 ロウリチュス島マダガスカル島より、
 ※Rodrigues Island=ロドリゲス島
 ロープの辺りには前に記する月分には、
 畏えうべき颶風ありと云々。
 本日正午のベステッキによるに、
 Rodrigus Eiland Nto met de afstand
 van6°18 mest Print van Mauritius Nw
 3/4 N met de afstand van 63°30
 Wood Punt Boirbon NW 1/2 wt
 distancr 7°7

 この3島共に島人住む。欧人また住む。
 マウリテュス不列顛領
 ※ブリテン領。
 ボールボン佛朗西領に而。
 ※プロシア領。
 2島共に船掛場及び船修繕場あり。
 土産コーヒー及び砂糖を出すという。
 按針役が云う。
 この島に皆毎屋風力を測る器械を、
 屋上に設け置く。
 これヲルカーン(台風)によって、
 毎々家屋を壊ちて人に関わるから云々。
 晩方より風次第に吹き出す。
 夜に入ってもしかり12時頃に至っては、
 船足7里位なり。

同15日(日本12月27日) 快晴 正午有日
 朝来風弱く竟日また弱風で船足3里位なり。
 風方位は昨日の如く東北東にして溽暑なり。
 空気湿気を含みて甲板上全て、
 深秋の暁露深きが如く。
 また諸材湿気を含み殆ど湿らんと欲す。
 入り夜更に甚だし。余無記事。
  前日バターピヤに在りし頃、
  作りかけし詩の首松を補いて
 獣雲驅雨太凄清欲微涼晩晴
 地近村郊千樹縁天教花草四時榮
 方風露迎秋色故國山河入月明枕孰
 驚孤客夢椰林深慮約哥鳴


つづく。
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