榎本釜次郎渡蘭日記⑦

//////⑦/////
つづき。

2月22日 陰晴(日本正月5日) 正午有日
 徹朝風なお強く方向また大抵同じ。
 8時英商船1隻をバリホールの方、
 海里1里の距離に見る。
 我方よりを揚げて示し故、
 彼また國旗を揚げて示したり。
 彼の船はフレガットたり。
 フリゲート船
 殆ど我と並びたれども彼船は正午頃、
 我より先に進み去る。
 正午の実測によるとこのエトマールは、
 今度此迄の進み方なり。
 正午所在よりマダガスカル島の、
 南岬シント、マリアは、
 ※Cap Sainte Marie=サントマリー岬。
 Nto1/2o 距離3度50分たり。
 故に殆どマダガスカル島を通過す。
 但し昨日の正午所在よりマリア岬は、
 北北西4分3西。この距離大凡3度40分たり。
 〇過午風死して方位不一定。
  4時より南南西の方に一定して、
  船足4-5里に至る。入夜雨降る。
  風また頗る吹くけれども、
  動揺は昨日の如くならず。
 〇本日は海波互に来て方位一定せず。
  所謂ドールエンカンデルエーベンテセー
  是なり。

2月23日(日本正月6日) 晴 正午有日
 夜来別に強風なし。
 朝より風次第に西の方に変わる。
 且模様にてデーニング(うねり)が、
 南南西より来る(但し他の日記に記すと
 風の方位は皆ミスウエーミングの改正を
 用いず故に他日ベステッキと比較して
 改むべし)。
 甚だ高くして船動揺殊に甚だし。
 晴雨儀は昨日に比べれば更に「強く降る」。
 29度5ストープに至る。
 然れども空気乾きて模様悪からず。
 風は凪模様なれどもその方向は、
 次第にメットソンに回る。
 これをもって考えるに際し、
 マダガスカル或アフリカ地方の近辺に、
 スウァーレウェードル或は、
 zwaar weer=悪天候。
 ヲルカーンありと哉。
 且また正午海水の暖度は昨日より2度高し。
 これヲムストルミヘゼーありし證とすべし。
 竟日別に記する如く高波にて船動揺して、
 風静にしてインデウィンドの、
 ややよきもの位なり(4ストレーキ位なり)。
 只空気は竟日よし。且つ乾けり。
 入夜も天晴る。昼と同じ。
 只風は同方位(即WTZ改正の方位なり)。
 昼よりもやや強く吹く。
 これをロイム(後方)に受ける時は、
 4-5里のファールとあるべけれど、
 如何ともホール(前方)カントより来るを。
 〇正午のベステッキによるとアフリカ地方、
  一番遠き所は海里百30里位なり。
 本日正午前アルバトロース及び、
 ※アホウドリ。
 黒き羽の鳥の飛ぶを見る。
 アンデレパッサギールが云う。
 ペイルホーゲルの群飛を見たり。
  この日記を記する時は即10時頃なれど、
  晴雨儀は依然29拇5線たり。
  常ならぬ模様と知るべし。
 夜12時より雨が少し降る。
 船動揺頗る甚だし。

2月24日(日本正月7日) 晴 正午有日
 朝から船動揺して夜来と同じく甚だしい。
 竟日も同じ只晴雨儀は次第に外れる。
 空気またよし。正午の実測によるに、
 昨日より風筋宜しからざるを以て、
 船の所在北によれり。
 過午少し西より北の方に転ぜり。
 4時船のホールの方に鯨魚1尾の行くを見る。
 大きさ大凡50フィートありと云う。
 晩来魚のような羽が船側に飛ぶを見る。
 変海鳥たり。夜に入り月明かりなり。
 本日は昨日よりも暖気増せり。
 〇我れ甲板上に月を見る。
  烟なく凄明なる事冬の月の如し
  賞する。数時にして止む

2月25日(日本正壬月8日) 快晴 正午有日
 竟日好天気で風穏やかで波安らか故船足無。
 船動揺少し洋中に物を見る。
 入夜月明かり風涼しい。
 蘭人と共に此彼の歌技を奏調して、
 互に相楽しむ。本日は格別昼中暑かりし故、
 風清月白に歌舞する事、
 あたかも江城の夏夜明月の節の如し。

2月26日(日本正月9日) 晴雨 正午有日
 朝来風頗る緊しく只方位甚だ宜しからず。
 午前ホールの方で松魚1尾を吊り上げたり。
 ※松魚=カツオ
 丈は1尺5寸程周縁又殆ど同じ。
 その太さを知るべし。
 前も見たが、本日も見たる鳥は、
 即ち本邦でいう所の所謂松魚鳥にて、
 カツオドリ
 松魚について飛ぶ魚なり。
 松魚を和蘭にてBenieterという。
 しかれども其邦では獲れずという。
 午飯に喰らうに味本邦のものに変わる事無。
 只割烹拙にして且つヘプラードにせし故に、
 ※piperadeか?煮込み料理。
 肉固くなりて殆ど石の如し可憾々々。
 〇午後4時頃より騒雨烈風と共に来る。
  方位よからず。一雨は格別強からねど、
  風は強くヅラームセイルベルゲン為す。
  スタンペン(横動)殊に甚だしき。
  スリンゲル(縦動)もまた頗る甚だしくて、
  歩行に極めて不便なり。晩暮雨晴る。
  入夜久しぶりの月出。風力依然西南。

つづく。
//////⑦/////

■関連記事■
東京都文京区 吉祥寺/榎本武揚墓所
 吉祥寺にある榎本武揚の墓。
「榎本武揚」安部公房
 榎本武揚を題材としたミステリー小説。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です