榎本釜次郎渡蘭日記⑩

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つづき。

3月13日(日本正月24日) 晴 正午有日
 微朝風弱し。ウ子り昨日と同方向より来る。
 ※ウ子り=うねり。
 只風は西に転れり。船足2-3里に過ぎず。
 船1隻をホールの方に見る。
 距離極めて遠し。
 過午1時頃より西風次第に吹き透る。
 船足4-5里に至る。正午の実測によると、
 此のエトマールは這少のハールト(速力)と、
 ※etmaal=1日。
 思いしに送潮にてヘヒステより、
 海里6里進みたりし、幸いなり。
 午飯終わって甲板上を歩く。
 海面にクラゲの如くにして、
 長葭の生物が夥しく浮き出る。
 ボルトギーセ、メノアー
 Portgiusche man of warという。
 ※カツオノエボシ。
 即ち英吉利語にてポルトガルの軍艦と云う。
 意味は判らず。其所は左の図の如し。
 ※下記に図を掲載。
 その大きさは測るものの矢や大なり、
 尤も大小は不均。其の大なるものは、
 日本の5-6寸の大きさのものありと云う。
 このもの夜は光を放つ。甚だしき。
 且つ人が手に握るときは痛さを覚える。
 その痛さは2日位に及びたり。
 その痛さ火にて焼きたるに均しいと云う。
 このヂール(動物)は全身恰も海母如く、
 ※海母=クラゲ。
 硝子光ありて透明たり。足数個ありて、
 長さは判からず。その尤も長きものは、
 3尺に及びたる如し。この長き足は、
 1個に止まる余は短し。A符首B尾Cは、
 様の肉にて薄紅の色を帯びる。
 〇このヂールは首より右の腋に、
  Cの肉ありて全体を転側す。
  全体は膀胱と同じき空虚にて夥しき。
  スレームを醸し出す。
  恰もこのスレームにて、
  全身を爲せる者の如し。
  其の転側する時は乙図の形を為す。
  能水上に体を自由に転ず。
  その転側するや三暋眠位にして、
  再びまた転ず。
  察するに全身の膀胱中に空気を含み、
  この空気を時々入替る者と見えたり。
  故にこのヂールは海母の如く海中に、
  沈むものにあらずして常に水上に浮かぶ。
  恰も4月頃潮水中に荷銭を見るに似たり。
  Dの所螺肉の末に似たり。
 〇数個の足は皆清緑色(又コンジョー
  似たり)にして其の足際に図の如く、
  無数の小點がある。恰も蛙の卵に似たり。
  またこの外に足表に白き穂の如き、
  短きもの生ず。まさに人の痛さを、
  覚ゆるものなるべし。甲必丹が云う。
  このヂールの其の足にて、
  小魚を巻捕らえ喰らうと。
  只予が見る所にこの所と名付けて、
  能ものを喰らうか如き露頃を認めず。
  然れども其口あるを以て能ず。
  其の全身の中より、
  空気を呑吐するなるべし。
 晩餐前鮪魚(シビマグロ)即ち、
 洋語アルブュコールを1尾を釣る。
 長さ2尺7寸位また極めて太い。
 衆皆刺身にして喰らえども、
 此等の事鄙野にわたりたる事故に遭いて、
 1人喝蘭人に向かいていうものなかりし。
 ※先日事故で船員が死亡した。
 晩餐に如く常彼国の調方にて此魚を烹るに、
 ボートルの性質不良なるを以て、
 ※boter=牛乳を濃縮した乳製品。
 其の臭気殆ど堪えるべからず。
 予はその2片を喰らう。
 味は日本産の鮪魚に異ならず。
 只其の牛乳の臭殆どせんと欲す。
 また貧食の一戒なり。
 余人またしよる者またあり。
 〇入夜同じく弱風たり。
  11時頃少時間雨が来る、一時就寝。
  本日肩痛大いに減ず。
  喝醫の法によらずして止む。
  只ジンキングたる可知。
  今日歿ミスウェシングを測る。
  是より此を用ゆべし。


Portgiusche man of warのスケッチ。

つづく。
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