薩摩藩領の大口地方の農民救済の為、
堀之内良眼房という山伏(修験者)が、
川内川の治水工事や開墾を行いました。
良眼房は川内川を入念に調査し、
これを基に計画書を藩に提出。
不可能とされた工事の許可を得て、
苦労の末に川ざらえを成功させています。

[二本の銀杏]の主人公上山源昌房は、
その堀之内良眼房がモデル。
なかなかの切れ者ながら女には見境が無い。
沢山の郷中女子に手を付けまくるし、
挙句には百姓娘だけでなく、
世話になった名士の奥方にまで、
手を出してしまいます。
この奥方と道ならぬ恋が、
後に大事件を引き起こすのですが・・。
命がけの治水工事を成功させた英雄が、
女好きの種馬のように描かれていますが、
モデルの良眼房も相当種を撒いたようで、
郡内の[至る所に子孫が居た]らしい。
著者の海音寺潮五郎はこの事を知り、
この小説を書く気になったという。
この主人公は僧侶ながら聖人ではなく、
策略はめぐらせたり敵を貶めるなど、
なかなか小ズルい人物。
ヒロインの名士の奥方お国も、
女を前面に出した俗物だったりします。
個人的に双方に好感は持てないのですが、
人物としてのリアリティが感じられ、
生き生きとしていました。
司馬遼太郎が[名作]と評価しており、
海音寺の代表作として知られていますが、
確かにこのような一地方の治水工事事業を、
これだけドラマチックに描けるのは、
名作と呼べるかもしれません。
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