「殉死」を読みました。
乃木希典は長府藩士で幕長戦争にも従軍していますので、
一応幕末の人物でもあります。
もちろん明治期がメインの人物で、この「殉死」も明治期の話です。
ただ、「乃木愚将論」の基盤のなった本作に興味ありましたし、
なにより本がとても薄い(笑)ので、
出張の移動時に思い切って読んでみました。
司馬遼太郎という人は、満州で学徒兵としてしごかれ、
日本陸軍を心底軽蔑していたという。
その陸軍の基礎を創ったのは、明治期の長州閥であるため、
長州が嫌いであったと何かで読んだ事があります。
なるほど土佐の坂本龍馬を描いた「竜馬がゆく」が、全8巻。
薩摩の西郷と大久保を描いた「飛ぶが如く」が全10巻。
それに比べ、松陰と晋作を描いた「世に棲む日日」はたった4巻。
長州が嫌いなのかなと感じる所はあります。
その長州軽薄の象徴として、乃木が描かれているらしいとのこと。
簡単に言えば、乃木の事をボロカス書いてる小説であるらしい。
まあ、そういう基礎知識を持ちつつ読んでみました。
長州出身の乃木希典は、なんら手柄も士官教育も無いまま、
同郷の出身者らの支援で、中将にまで出世します。
日露戦争では、陸軍の作戦上捨て置くはずであった旅順要塞を、
海軍から請われるカタチで攻略する事に。
しかし、攻略するための司令官に適当な人物がいなかったため、
旅順を知ってるというだけで乃木と参謀の伊地知がえらばれました。
簡単に落とせると思い意気揚々と出兵する乃木率いる第三軍でしたが、
総攻撃を開始して緒戦で大敗をしてしまいます。
その後も乃木と伊地知は、突撃を繰り返しますが、
旅順は落ちず、日本兵の死体が増えるだけでした。
早く旅順を落とさなければ、海軍はロシア艦隊に勝てない。
旅順には二百三高地と呼ばれる防備手薄な高地がありました。
海軍や満州の司令部は、二百三高地を落とすべきと進言しますが、
乃木と伊地知は固辞して作戦を変えません。
その間、死傷者は山のように増え、武器弾薬も浪費してゆきます。
業を煮やした総司令部は、名将児玉源太郎を派遣します。
指揮権を掌握した児玉は二百三高地を落とし、ほどなく旅順要塞も陥落します。
戦後は学習院長となり、天皇の厚い信頼を得たが、その明治天皇は崩御。
大葬の日に、夫人静子と共に自宅で殉死する。
と、そんな内容です。
感想としては、そこまで乃木をボロカス書いているとは感じませんでした。
確かに戦術の才能は皆無と断言しています。
しかし、乃木の人となりについては、司馬特有の人物評価と感じました。
読み方によっては、軍神とあがめられている乃木をあざ笑う作品とも言えます。
失敗を繰り返すその戦術音痴ぶりは、「乃木は愚将である」と感じさせます。
戦術的な事は、素人の僕にはわかりません。
が、その素人の僕には確かに乃木は愚将に思えます。
ただ、「軍神」の定義とは何なのか?
僕なりの考えですが、生きている間は連戦連勝の将が「軍神」と呼ばれます。
しかし、その連戦連勝の将が死後に軍神として崇められたケースは少ない。
連戦連勝の覇王項羽はとうか?三国志史上最強の呂布はどうか?
恐ろしく強かったという評価だけで軍神と崇められていません。
項羽よりも漢の劉邦の方が、高祖として崇められていますし、
劉備、関羽、趙飛が束になってかなわなかった呂布を差し置き、
その3人のうちの一人関羽が「関帝」として崇められています。
日本でも足利尊氏に負けた楠木正成が軍神として崇められました。
どうも戦績よりも人徳(忠義とか)の方が重視されている傾向がありますね。
(上杉謙信は連戦連勝の大名で「軍神」と呼ばれますがが、
彼の場合はストイックな人柄あっての「軍神」だと思います)
そう考えると乃木にも「軍神」の資格があるように思えます・・・。
ですが、例にあげた人物たちは、最強ではないがある程度は強かった。
しかし、乃木はあまりにも弱すぎる・・・・。
司馬には、そういう滑稽さを「軍神乃木」に感じたのかもしれませんね。
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