緊急事態宣言の為、史跡訪問は行けていません。
何か調べようにも図書館も開いていない。
暇なので今更ながら「涙袖帖」でも読んでみる。
「涙袖帖」は久坂玄瑞が妻の文に送った手紙21通を、
3巻に纏めたものだそうですが、
そのうち2巻は空襲によって焼失したようで、
はじめの1巻しか現存していません。
しかしながら手紙の内容は活字化されており、
「涙袖帖」というまとまりではありませんが、
内容は「楫取家文書一」などで読むことができます。
(1)安政5年冬(江戸より)
一ふて参らせ候寒さつよく候へとも
いよいよおん障なふおん暮めてたくそんじ参らせ候
まいまい文まいる此よりは何かいそかしく打絶申候
みなみな様無事遊はしめて度御事に御座候と
ふそふそ月に一度は六ヶ敷候得は三月に一度は
保福寺墓参はおん頼参らせ候申も疎御用心専に候
皆々様に宜おんつたへ頼参らせ候何も後便申候かしこ
尚々きもの此うち飯田の使いまいる慥に受取申候
玄瑞
お文との
様
訳:一筆書かせて頂きます。
寒さがつよくなってきましたが、
何事も無く暮らされているようで嬉しく存じます。
毎度文が来る時は、何かと忙しく働いており、
手紙を出す事が出来ずにいましたが、
皆さまが無事に過ごされて喜ばしい事です。
月に1度は難しいかもしれませんが、
3ヶ月に一度は保福寺への墓参りをお願いします。
皆様によろしくお伝えください。また連絡致します。
なお、飯田が持って来た着物は確かに受取ました。
玄瑞
お文どの
様
※久坂と文は安政4年12月に夫婦になっていますが、
その翌月に久坂は江戸遊学に旅立っています。
この手紙が出された正確な日付はわかりませんが、
最初の手紙であればこれはあんまりですよね。
新婚ですし、妻とはいえ師の妹ですから、
最低でも江戸到着の報告はしたはずでしょう。
何度か手紙のやり取りをした後で、
手紙が途切れがちとなったので、
保存するようになったと推測できます。
保福寺は久坂家の墓地のあった寺ですが、
久坂家の墓は現在、
「吉田松陰の墓ならびに墓所」に移されています。
飯田とは松陰門下の飯田正伯の事。
(2)万延元年8月20日(江戸より)
尚々先生の墓へも時々参り候間御安心なさるべく候
一筆参らせ候逐々寒さにさし向候得とも
まづは杉其外みなみな無事のよし悦申候
さては宇野おば様御事仰天いたし候
さぞさぞおかか様にも一方ならぬおんちから
おとしとそんし参らせ候まいまい保福寺にも
御参詣のよし安心いたし候過去帳の事生雲へ
申遣しおんむかへなさるへく候
何も後便々々寒さ御厭申も疎に候かしこ
八月廿日
玄瑞
お文との
訳:先生の墓には時々参っているのでご安心下さい。
一筆書かせて頂きます。
だんだんと寒くなってきましたが、
まずは杉家などの皆々様が無事と喜んでいます。
宇野のおば様が亡くなった事、
さぞお義母さまが力を尽くしてくれたのでしょう。
たびたび保福寺にも参拝頂いているということで、
安心しております。
過去帳の事は生雲へ聞いて下さるようお願いします。
また連絡致します。寒さにはお気をつけ下さい。
8月20日
玄瑞
お文どのへ
※宇野のおば様は久坂の親戚。
文が過去帳はどこにあるのか手紙で聞いたようで、
生雲に聞いて欲しいと答えています。
生雲とは生雲の庄屋大谷家を指しており、
久坂の母富の実家でした。
(3)万延元年9月24日(江戸より)
次第にさむく相成候杉みなみな様おん障なふおん
暮しの由悦申候此内は生雲へおとと様御同道にて
おん出のよし生雲には悦ひ候とそんし候
おかか様姉様など舉ておん出なれは少しはおかか様の
おん気はれにも相成へくとそんし候
彌ニの便衣物来る受取申候着物は當分は入用無之候
古き寳物のようになるまできれは格別に衣服は
入り不申候何も後便々々かしく
九月廿四日
玄瑞
尚々杉みなみな様にも宜おんつたへ可被下候
さむさおん厭申も疎なりかしこ
お文との
無事
訳:次第に寒くなってきましたね。
杉家の皆様も障りなくお暮しで喜んでおります。
生雲へはお義父様と一緒に行ったそうで、
生雲はさぞ喜んだ事だと存じます。
お義母様や姉様もお連れになれば、
少しはお義母様の気も晴れるかもしれません。
彌ニが衣服を持って来たので受取りました。
着物は当分いらないでしょう。
古い宝物のように着れば良いのでいりません。
またお便り致します。
9月24日
玄瑞
杉家の皆様にも宜しくお伝えください。
寒さにはお気をつけ下さい。
お文どの
無事
※文らが生雲の大谷家へ行った事と、
着物が届いた事へのお礼の手紙。
一応杉家は毛利家直参大組士ですので、
久坂としても鼻が高いのではないでしょうか?
大谷家ももてなすでしょうから、
義母も連れて行ったらと勧めています。
彌ニとは品川弥二郎の事で、
文から着物を事使って来たようで、
当分いらないと丁寧に辞退しています。
つづく。
①/②/③/④/⑤/⑥/⑦/⑧
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・久坂玄瑞
久坂玄瑞について。古い記事。
・「花冠の志士」古川薫
久坂玄瑞を主人公とした古川薫の小説。
・萩市 吉田松陰墓所
吉田松陰の墓の他、久坂の墓もあります。