①/②/③/④/⑤/⑥
つづく。
夜は暗し、道は知れず、
大いに困迫する間に夜は明けぬ。
海岸を見廻れども我が舟みえず。
※夜は暗く道は判らず、
大いに困っている間に夜は明け、
海岸を見渡しても我が舟は見つからない。
因って相謀りて曰く[事がここに至れば、
奈何ともすべからず、
うろつく間に縛せられては見苦し]とて、
直ちに柿崎村の名主へ往きて事を告ぐ。
※2人で相談して曰く[事は失敗に終わった。
どうする事も出来ないだろう。
うろついている間に捕まっては、
とても見苦しい事となるだろう]と、
直ちに柿崎村の名主に出頭。
遂に下田番所に往き、更に對し囚奴となる。
ウリヤムス日本語を使ふ。
誠に早口にて一語も誤らず、
而して吾れ等の云う所は、
解せざる如きこと多し。
蓋し渠れが狡黠ならん。
是を以って云はんと欲すること多く言い得ず。
※次に下田奉行所に出頭する事となり、
それから囚人となった。
ウィリアムズは日本語を使う。
誠に早口で一言も間違わない。
しかし我らの言う事は、
判らない事が多かったようだ。
更に彼は狡猾な人である。
この為に伝えたい事が言えなかった。
僕事大略かくの如し。
畢竟夷舶へ乗移る際少し狼狽す、
故に我が舟を失ふ。若し舟を失はず、
亦要具を携え舶に登らば、後に心がかりなく、
舶中へ強ひて留まることを得、
我が文書等を夷人に示し、
叉舶中の様子を見んことを求め、
海外風聞などを尋ぬる間に夜は明くべし。
※僕の事件はかくの如し。
結局夷船に乗り移る際に狼狽し、
この為に我が舟を失ってしまった。
もし舟を失うことはなく、
また荷物を持って船に乗れば、
心掛かりなく船に残る事ができて、
我が文書等を夷人に示して、
また船の中の様子を見る事を求め、
海外の情報等を尋ねている間に、
夜は明けていただろう。
夜明くれば白昼には歸り難しと云いて
一日留まらば、其の中には必ず熟談も出来、
計自ら遂ぐべし、假令事遂げずとも、
夜に至り陸に返り急にさらば、
かかる禍敗には至らぬなり。
※夜が明ければ明るいうちは帰れないと、
一日留まっていれば深い話も出来て、
計画も成功しただろう。仮に失敗しても、
夜になって陸に戻ってくれば、
このような事には至らなかっただろう。
つづく。
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