(映画)壬生義士伝

壬生義士伝浅田次郎の同名時代小説を、
滝田洋二郎の監督で映画化したもの。

吉村貫一郎という人物は実在しますが、
作品に描かれる彼は創作上のもので、
家族を養う為に守銭奴如く行動したり、
盛岡藩家老と親密な間柄だったとか、
そういう記録はありません。
しかしながら大所帯の新選組において、
そのような人物がいたとしても、
何ら不思議な事ではないと思います。
もしかしたら記録が無いだけで、
実際に吉村がそうだったという可能性も、
全くのゼロではないのですから。


実は原作は読んでいないのですが、
渡辺謙主演のTVドラマは視聴しており、
(ドラマ)壬生義士伝
双方で内容が結構違いますが、
どちらが原作に近いかは判りません。
渡辺謙の吉村は無骨な感じでしたが、
中井貴一の吉村はそうではなく、
いかにも貧相な田舎侍な感じ。
中井は軍人をさせても僧侶をさせても、
インテリスマートなイメージですが、
それは悪い意味ではなく持ち味として、
彼しか出来ない味を出す俳優です。
それを生かしたコミカルな役もこなし、
好きな俳優のひとりではありますが、
この中井の吉村貫一郎もまた、
彼にしか出来ない味を出していました。
助演である佐藤浩市扮する斎藤一は、
ニヒルながら人間味ある演技で、
非常に良かったと思います。
晩年の斎藤が熱を出した孫を、
夜中におぶって病院に連れて行くと、
偶然にも吉村の写真を目にして、
そこから回想が始まるという導入。
斎藤はお国自慢の田舎侍を気に入らず、
吉村の殺害しようとしますが失敗し、
腕試しと称して刀を納めます。
吉村は隊規違反の隊士の介錯を任され、
抵抗して逃げだす隊士の首を見事に斬り、
その報酬を受け取るのですが、
刃こぼれがしたと追加をせびり、
更に欲しそうな顔をして多くをせしめる。
これに幹部らは笑っていますが、
斎藤は気に入らない。
それからも守銭奴のように金を集めますが、
これを自分の事に使う訳ではなく、
クニの家族に送金しており、
その理由を回想を交えて描きます。
妾腹の子から家老となった友人とは、
身分は違えど友情を保ち続け、
惚れて所帯を持った妻とその子らと、
貧乏ながら慎ましく生活していましたが、
飢饉で暮らしが行き詰まり、
家族を養う為に脱藩してに上り、
出稼ぎをして仕送りをする事に決めます。
守銭奴のような吉村の行動は、
このような事情でした。
しかし時代が風雲急を告げると、
新選組の状況は少しずつ変化して行き、
参謀伊東甲子太郎は独立を画策。
伊東らは斎藤と吉村を誘いますが、
倍の報酬を提示されても吉村は断り、
斎藤だけ伊東について行きます。
しかし斎藤は間者として潜入しており、
斎藤の妾ぬいを介して吉村が情報を得て、
これを近藤や土方らに伝達。
伊東らによる近藤暗殺計画に先駆け、
新選組は伊東一派を殺害しました。
やがて新撰組は鳥羽伏見の戦いに参加し、
薩長の軍勢に敗北。
最後の戦いで吉村らは勇敢に戦い、
斎藤は吉村に「嫌いだ」といいつつも、
彼を本物の武士であると認ます。
斎藤が孫を連れて行った病院の院長が、
実は盛岡藩の家老の子で、
吉村の死に立ち会ったと聞き、
その死の顛末を知る。
更に院長の妻が吉村の娘であると知り、
斎藤は頭を下げ感謝して去ります。
帰り際に吉村が口にしていたお国自慢を、
孫に聞かせながら帰宅しました。

非常に良く出来たヒューマンドラマで、
これを観て泣いたという話は聞きます。
原作未読なので作者の考えは不明ですが、
壬生義士伝と称しているからには、
吉村は「義士」である筈ですが、
吉村の「」とは何だったのか?
少なくとも尊皇攘夷ではないはず。
では「忠義」でしょうか?
普段の行動、最後に死を選ばずに、
旧家へ助けを求めた事等、
我々が知る「義士」とは程遠いのですが、
伊東からの誘いを断っていたり、
死にきれずとも御旗に逆らってでも、
死地を逃げずに戦ったりと、
彼なりの「節義」があったのかも知れません。
その「節義」を果たしたうえで、
それでもなお死ななかった為に、
「忠義」を捨て家族に会おうと願ったのか?
最終的にその願い虚しく切腹しますが、
その際も貰った業物を息子に与えたいと、
血で汚さないように使わず、
刃こぼれでボロボロの刀で自刃。
「義」とは何ぞやと考えさせられます。
斎藤役の佐藤浩市の演技も素晴らしく、
冷血漢かと思いきやそうでもなく、
ぬいが路上で無理やり接吻した時の表情や、
その死を知った時の表情は秀逸。
非常に魅力的な人物像でした。
とはいえやはり残念な部分がいくつか。
個人的にですがあの隊服は無しかな?
御法度」もそうですがダンダラ隊服が、
非常にかっこよすぎる。
当ブログでの考察としては、
あのダンダラ隊服は儀礼用のもので、
戦闘にはそもそも使用しない予定のもの。
戦闘服ではないわけです。
戦闘でも着ていないし普段も着てない。
そういうものだと思いますが、
映像的には敵味方の区別が付きにくいので、
隊服があった方が良いのでしょう。
ならは黒服にタスキで統一する等、
何らか方法があったかと思います。
あとは熱で運ばれた孫が元気すぎる。
子を持つ親だからか気になりました。
もっと弱った演技をさせても、
良かったのではないかと。
意外にも途中途中で出てくるので、
違和感があって仕方なかった。
ずっとうなされ続けさせた方が、
リアルで良かったと思います。

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